社会福祉施設における 労働災害防止のために

第三次産業における労働災害は、労働災害全体の約40%を
占め,非常に高い水準に推移しています。その労働災害の減
少のため、平成25年度~平成29年度の5年間を対象期間とす
る「第12次労働災害防止計画」では、第三次産業、とりわけ、
労働災害が多発している業種である社会福祉施設については
労働災害減少の目標値が設定されております。
その第三次産業については、日常生活でも起こりうる転倒災
害が最も多い事故の型であることもあり、労働災害防止に係る
一定の手法が確立された製造業・建設業等と比較して、事業
者、労働者とも安全に対する意識が低い傾向にあるといわれ
ています。そのため、第三次産業における労働災害を減少させ
るためには、事業者、労働者ともに安全に対する意識を高める
必要があります。
この冊子は、当会が全国の会員を動員して、平成27年度厚
生労働省委託事業「第三次産業労働災害防止対策支援事業
(社会福祉施設)」により訪問指導を行った事業場の中から、社
会福祉施設において多く発生している災害の防止のために採
られている(採られた)好事例を紹介したものです。
本冊子に紹介します事例を参考にしていただき、社会福祉施
設における労働災害防止につながることを期待します。
平成28年3月
(一社)日本労働安全衛生コンサルタント会
社会福祉施設における労働災害
社会福祉施設で発生した労働災害を事故の型別に見ます
と、施設利用者の移動介助中等の「動作の反動・無理な 動
作」と入浴介助中等の「転倒」災害で全体の3分の2以上を占
め、交通事故、墜落・転落などが続きます(図参照)。
図 社会福祉施設における原因別労働災害発生の割合(平成26年・休業4日以上)
出典:労働者死傷病報告及び中央労働災害防止協会「労働災害分析データ」から作成
この冊子では、平成27年度厚生労働省委託事業「第三次産
業労働災害防止対策支援事業(社会福祉施設)」により訪問
指導 を行った施設の中から、社会福祉施設において特に多
く発生 している転倒災害および腰痛予防のために採られて
いる好 事例を紹介します。
転倒災害の防止
社会福祉施設での転倒(人がほぼ同一平面上で転ぶ場合
をいい、つ ま づ き又は滑りにより倒れた場合等をいう。)災害
は、
① 階段での踏み外しや滑ったことによる転倒
② 床(浴室を含む)がぬれていて足を滑らせて転倒
③ 室外での雪や氷、雨水で足を滑らして転倒
④ 駐車場での車止めに躓いて転倒等が多いといわれてい
ます。中でも①の階段や②のぬれている床で「転ぶ」ことに
よる災害が多く発生しています。
特に社会福祉施設における特色として、移乗などの介護
時にバランスを崩して転倒したとか、利用者が倒れそうに
なったため、それをかばったときにも多く発生しているよう
です。
それらの災害防止のために
① 階段、段差のあるところ、スロープ
② 廊下
③ 居間
④ 浴室・着脱室
⑤ 厨房

において、それぞれ採られている転倒防止策について、
好事例と思われるものを紹介します。
1 階段、段差のあるところ、スロープ
階段での転倒防止
介護老人施設 規模 50~99人
階段の上・下に滑り止
めマットを設置すると
ともに、階段には手す
りを設けている。
滑り止めマット
手すり
介護老人施設 規模 50~99人
階段での転倒防止
• 階段に手すりを
付けている。
• 手すりに衣服が
引っかけること
がないように手
す りの端は、内
側や下向きと
なっている。
端が下向き
端が内向き
介護老人施設 規模 50~99人
• 施設内の規程により、階段を降りるときは、一旦停止
を励行することを決めているが、それを確実に励行さ
せるために、階段の降り口に花壇を置いて、通行す
る人に意識させ、一旦停止させている。
当番を決めて花に水をやること、花は季節により取り換
えている。
花壇
特別養護老人ホーム 規模 50~99人
• 階段の踏み外し防止のため階段に色を付けている。
• 階段の先にある扉には開閉時の衝突を防止するため、
注意喚起(見える化)している。
階段
ノックして
ゆっ く り
開けましょう
滑り止めシート
階段に色を付けている
玄関の段差の解消
介護老人施設 規模 50~99人
 職員用玄関の段差をなくしている。
 玄関の入り口の上には屋根があるため、雨が吹き込ま
ない。
 ぬれ防止のマットが設置されている。
職員用玄関
廊下・床・部屋の全体を
滑りにくい素材としている
玄関の段差の解消・マットの滑り止め
介護老人保健施設 規模 30~49人
• 玄関の車椅子用スロープに滑り止め付きマットを敷い
ている。
• 段差解消のため、マットを使用しているところは多い
が、完全な滑り止め付きマットを使用しているのは少
ない。
段差注意のテープ 滑り止め付きマット
スロープの障害物の除去
特別養護老人ホーム 規模 50~99人
長いスロープの
両側に手すりを
設置し、手すりの
角を丸くしている。
介護老人施設 規模 50~99人
2 廊下
特別養護老人ホーム 規模 50~99人
廊下を整理・整頓
することにより躓く
ことによる転倒防

手すり
グ ル ー プ ホ ー ム 規模 10~29人
特別養護老人ホーム 規模 50~99人
廊下の整理・整頓
• 廊下の整理・整頓に努め、障害物を除いて躓きによる
転倒防止を図っている。
手すり
3 居室
特別養護老人ホーム 規模 50~99人
• 躓きの原因となるようなものを置かないように整理・
整頓に努める。
使用しないベットは
通行するスペースに
はみ出さないように
置く。
消火器が通行する
スペースのはみ出
さないように置く。
居室の整理・整頓
居室内での転倒防止と打撲防止
グ ル ー プ ホ ー ム 規模 10~29 人
居室のすべての床を滑り止めとしているとともに家具類
は、角を丸くしている。
通所介護施設 規模 10~29人
居室内の整理・整頓
居室の床暖房
いずれの事例も居室内の整理・整頓を確実に行い躓きに
よる転倒災害を防いでいる。
4 浴室・着脱室
特別養護老人ホーム 規模 30~49人
いずれの事例も浴室の床を滑り止めの材料にして転倒
防止を図っている。
老人福祉施設 規模 30~49人
浴室での滑り止め
特別養護老人ホーム 規模 50~99 人
着脱室での転倒防止
• 浴室の隣にある着脱室に着替えの際に使用する手す
り(施設の利用者がこれつかまって立ち、介護者が着
替えを手伝う)→ 転倒防止のため。
5 厨房
介護老人施設 規模 50~99人
厨房から外部への濡れ防止
厨房から外部への濡
れを防止するために
出入り口にマットを
置き、そのマットを粘
着テープで固定して
いる。
介護老人施設 規模 50~99人
厨房用の滑り
にくい作業靴
を履いている。
使われてい
る滑りにくい

整理・整頓に努める必要
はある。
特別養護老人ホーム 規模 50~99人
厨房における滑り止め
床をぬらさないドライシステムの厨房(排水溝はない)
滑りにくい作業靴の使用
特別養護老人ホーム 規模 50~99人
• 調理室のゴミ入れには、すべてキャスターが着いており、
容易に移動できる。
特別養護老人ホーム 規模 30~49人
• 転倒防止のため、特に滑
り にくい靴を使用してい
る。
転倒災害防止のポイント
1 階段や段差のあるところには、滑り止め、滑り止めマット、
手すりなどを設置する。
2 滑りやすいスロープには防滑用塗料を塗ったり、摩擦の
大きなマットなどを敷く。
3 床、階段、スロープ等、通行する場所は、水でぬらさない
ように注意する。担当者を決めて定期的に職場を巡視し、水
でぬれていないか確認する。
4 廊下に、水、油、食べ物などがこぼれた場合や雨天時に
床が湿っぽくなっている場合には、すぐに拭き取るようにす
る。
5 滑りやすいマットは、裏側がゴム製の滑りにくいものとす
るか、滑らないようにテープなどで固定する。それでも滑る
場合には、マットを取り除いた方が良い。
6 居室内の電気機器やナースコールのコードは、作業前に
足が引っ掛からないように片付ける。
7 居室のベッド周りは、整理整頓し、作業のしやすい環境
を確保する。
8 浴室の床は、防滑性の高いシートを貼ったり、滑りにくい
素材とする。
9 厨房では、水や油が床に落ちないようにする。それでも
落ちた場合には、すぐに拭き取る。
10 厨房の床をぬらさないドライシステムに変更するとよい。
11 施設内で使用する履物は滑りにくいものとする。厨房や
浴室等では特に注意する必要がある。また、底がすり減ると
滑りやすくなるため、必ず定期的に確認して交換するように
する。
腰痛の防止
社会福祉施設において看護・介護を行う人に腰痛予防に
施設全体で取り組むことは、看護・介護を行う人の健康のみ
ならず、看護・介護の対象となる人の安全確保、看護・介護
の質の向上、人材確保にもつながるものでしょう。
社会福祉施設での腰痛予防対策のポイントは、次のことが
あげられています。
① 施設長等のトップが、腰痛予防対策に取り組む方針を
表明し、対策を実施するための組織を作る。
② 対象者ごとの具体的な看護・介護作業について、作業
姿勢、重量などの観点から、腰痛発生のリスクを評する(リ
スクアセスメントの実施)。
③ 腰痛発生リスクが高い作業から優先的に、リスク回避・
低減措置を検討し実施します。
④腰痛予防のための健康管理、教育等を確実に行います。
詳しくは、厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指
針」(平成25年6月18日付け基発0618第1号 )を見てください

ここでは、おもに作業者の負担軽減による腰痛予防対策の
ために採られた好事例を紹介します。
作業者の負荷の軽減による腰痛予防対策
特別養護老人ホーム 規模 50~100人
• 各種のカートの導入により、作業者の負担軽減と作業能
率の向上が図れた。
汚物回収カート
配膳カート
特別養護老人ホーム 規模 100~299人
• 施設入居者の介護用トイレと汚物処理場を隣接させるこ
とにより、介護職員の労力低減を図り、腰痛予防につな
がった。
• この施設では、独自の腰痛予防対策マ ニ ュ ア ル を
作成し、全員に配布している。
介護付有料老人ホーム 規模 100~299人
介護老人施設 規模 50~99人
• 入浴温度および入浴時間の制御できる機械浴を導
入して介護職員の労力の低減を図っている。
• 機械浴には、入浴者が不
安を抱かないようにミラー
を設置している。
特別養護老人ホーム 規模 50~99人
• 突起物の少ない移動用リフト車を採用して、作業者の労
力の低減を図っている。
• リフト付き入浴槽を導入して、省力化・腰痛防止を図って
いる。
• この施設では、他に昇降式入浴槽および側壁昇降式入
浴槽等の最新の設備を導入して、省力化と腰痛防止を
図っている。
昇降式入浴

側壁昇降式
入浴器
作業姿勢による腰痛予防
特別養護老人ホーム 規模 50~99人
・ 作業台高さを調節して、疲れの少ない作業姿勢として
いる。
特別養護老人ホーム 規模 100~299人
• 清掃車作業車を準備し、作業は2人1組で行うこととして
おり、無理な姿勢にならないようにしている。
介助者の腰痛予防のための
作業管理のポイント
① 利用者の生活行動能力・機能の確認
介護の対象者の日常生活動作能力を把握し、介護への
協力を得る。
② ノーリフト原則の徹底:福祉用具の活用
福祉用具(機器・道具)を積極的に利用すること。
③ 介助者が避けるべき、または行うべき作業姿勢・動作
の確認作業姿勢・動作を見直す。原則として、人力による
人の抱上げは行わないで、介助が必要な場合にはリフト
やスライディングボード等を使用し、対象者に適した方法
で移乗・移動介護を行う。
また、不自然な姿勢となる作業は極力避ける。
④ 職場組織として取り組む:作業標準の作成看護・介護
者の数は適正に配置し、負担の大きい業務が特定の
看護・介護者に集中しないように配慮する。
⑤ 作業環境管理(温湿度、照明、作業床面、作業空間・設
備の配置等)
⑥ 介助者の健康管理(適切な休息や衣類・靴・補装具の
使用、腰痛予防体操)
「職場に お け る腰痛予防対策指針」に示されている特殊
健康診断を確実に実施する。
⑦ 労働衛生教育
⑧ リ スクアセ スメ ン ト および労働安全衛生マネジメントシ
ステム

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