自然に囲まれた高齢者施設(特別養護老人ホーム)の建物の外観
写真:とらもん192/Wikimedia Commons/CC BY 3.0(トリミング・サイズ変更あり)

高齢者施設の床で、なぜ「滑り止め」が重要なのか

東京消防庁によると、令和6年(2024年)の1年間に、日常生活における事故(交通事故を除く)で約16万3千人が救急搬送されました。このうち高齢者の「ころぶ」事故だけで約73,500人にのぼります。

介護施設でも、転倒は事故の中心です。北九州市が公表している令和6年度の事故報告の集計では、施設・居住系サービスの事故報告1,862件のうち、転倒が1,021件(54.8%)を占めていました。これは一つの自治体の集計であり、全国の数値ではありませんが、転倒が最も多い事故種別であることがうかがえます。

浴室・脱衣所・廊下・玄関などの床が濡れて滑りやすくなる施設では、床そのものの対策が欠かせません。ただし、高齢者施設の滑り止め施工は、一般の店舗や施設とは選び方のポイントが少し異なります。本記事では、業者を比較するときに見るべき点を整理します。

高齢者施設の落とし穴:「滑りにくければ良い」とは限らない

公的な資料にも、高齢者にとっては「床を滑りにくくしすぎると、つまずき等の原因となることがある」と記されています。歩行器や杖を使う方、足を引きずるように歩く方、車椅子を利用する方がいる施設では、「とにかく強く滑り止めをかければ安全」とは言えません。

また、同じ資料では、履物の有無や種類、水分の付着の有無によって滑りやすさが大きく変わることも指摘されています。素足、靴下、スリッパ、介護シューズなど、入居者や利用者が実際にどう歩くかを踏まえた提案ができるかが、業者選びの出発点になります。

高齢者施設の滑り止め施工業者を比較する6つのポイント

① 場所ごとに「適切な水準」を提案できるか

浴室と廊下、脱衣所とデイルームでは、歩き方も床の濡れ方も違います。場所ごとに必要な滑りにくさを検討し、強すぎず弱すぎない水準を提案できる業者かを確認します。

あわせて、隣り合う床どうしで滑りやすさが大きく違うと、突然滑り抵抗が変化して、滑ったりつまずいたりする危険が高まることも、公的な資料で注意されています。施工範囲の境目をどう考えるかも、確認したいポイントです。

② 施設を運営しながら施工できるか

入居者や利用者がいる施設では、施工中の動線確保が重要です。次の点を事前に聞いておくと安心です。

  • エリアを分けて段階的に施工できるか(浴室は入浴のない時間帯に、など)
  • 施工に要する時間と、施工後に立ち入れるようになるまでの時間
  • においや騒音の出方、換気の方法
  • 職員・入居者・ご家族への案内や、立入禁止の掲示の対応

③ 使用する薬剤・材料の安全性を説明できるか

高齢者は、においや皮膚への刺激の影響を受けやすい場合があります。使用する薬剤の名称や安全データシート(SDS)の提示、施工後の洗い流し・乾燥の手順、立ち入りまでの時間などを、書面で説明してもらえるかを確認します。説明があいまいな業者は避けた方が無難です。

④ 床材の風合いや、車椅子・歩行器の走行性を損なわないか

公的な資料では、凹凸の大きい床材などが、車椅子を使う方の移動を妨げたり、安全な歩行の妨げになったりする場合があると注意されています。施工後に床面の凹凸が大きくなっていないか、端部に段差ができないか、車椅子や歩行器の走行に影響がないかを、実際の床で確認できるかが大切です。美観(床材の見た目)への影響も、同時に確認します。

⑤ 効果の持続期間と、日常清掃の方法を示してくれるか

施設では、毎日の清掃や定期的なワックス・洗浄が行われます。施工した床に使ってよい洗剤や道具、避けるべきものを明確にしてもらいましょう。効果の持続期間の目安と、メンテナンスの方法、保証の内容と条件(どんな管理をした場合が対象か)も、見積もり段階で書面にしてもらうと、後のトラブルを防げます。

⑥ 無料のテスト施工と、同種の床での実績があるか

カタログの説明だけでは、実際の床での効果や見た目は分かりません。目立たない場所でテスト施工を行い、効果と風合いを確認させてもらえるかは、最も確実な比較方法です。あわせて、自施設と同じ床材(タイル、石、シートなど)での施工実績があるかも確認します。

滑り止め施工の主な方法と、高齢者施設での注意点

滑り止めの方法はいくつかあり、それぞれ向き不向きがあります(一般的な傾向です。実際の効果や耐久性は、製品や施工条件によって異なります)。

  • 滑り止めシート・テープ:手軽に施工できますが、端部がめくれたり段差になったりすると、つまずきの原因になる可能性があります。
  • 塗装・コーティング(骨材入りなど):被膜が摩耗したり、汚れが付着したりして、効果が低下することがあります。表面が粗くなる場合は、車椅子の走行や裸足での感触にも注意が必要です。
  • 床材の張り替え:床材そのものを滑りにくいものにする方法です。効果は期待できますが、工期や費用が大きくなり、施設の運営への影響も大きくなります。
  • 溶剤による表面処理:床材の表面に微細な凹凸をつくって滑りにくくする方法です。床材の風合いを保ちやすい反面、床材との相性があるため、事前のテストが欠かせません。

どの方法が適しているかは、床材・場所・施設の運営状況によって変わります。複数の工法を提案できる業者か、自社の工法に偏らず説明してくれるかも、比較のポイントです。

見積もりを依頼するときに聞きたい質問リスト

  1. 当施設の浴室・廊下・脱衣所では、どの程度の水準を目標にしますか。強すぎる場合の弊害は?
  2. 入居者がいる状態で、エリアを分けて施工できますか。立入禁止の時間は?
  3. 使用する薬剤のSDSを見せてもらえますか。においや肌への影響は?
  4. 施工後、車椅子や歩行器の走行に影響が出ないことを確認できますか。
  5. 日常清掃で使える洗剤・使えない洗剤は? メンテナンスの方法と保証の条件は?
  6. 無料テスト施工は可能ですか。同じ床材での実績はありますか。

S-LEAD JAPANの滑り止め施工(ME工法)について

S-LEAD JAPANは、施工実績3,500件以上、全国47都道府県に対応しています。ME工法は、現場の床材や状態に合わせて溶剤を調合する滑り止め施工で、床材の風合いを損なわずに施工できるのが特長です。施工前には無料のテスト施工で効果と見た目をご確認いただき、施工後はメンテナンスの方法もご案内します。

高齢者施設の場合は、「滑りにくくしすぎない」「運営しながら施工する」という点を踏まえ、施設ごとにご相談のうえで進め方をご提案します。業者選びの一般的なポイントは、失敗しない滑り止め業者の選び方|6つのチェックポイントも参考にしてください。浴室の床については浴場の滑り止め施工とは?で解説しています。

よくある質問

Q. 滑り止め施工をすれば、転倒事故はなくなりますか?

転倒事故がなくなるとは言い切れません。転倒には、床の滑り以外にも、体調、履物、段差、照明、見守りの体制など、さまざまな要因が関わります。滑り止め施工は、床に起因するリスクを下げるための対策の一つとお考えください。

Q. 浴室だけ施工することはできますか?

可能です。ただし、浴室と脱衣所・廊下の床で滑りやすさに大きな差があると、境目でつまずきや滑りが起こりやすくなる場合があります。施工範囲は、動線を踏まえて相談して決めるのがおすすめです。

Q. 入居者がいる状態でも施工できますか?

エリアを分けて施工する、時間帯を調整するなどの方法で、運営を続けながら進められる場合があります。施設の状況によって異なりますので、まずは現地の状況をお聞かせください。

参考資料