「管理組合が決めること」で済ませていませんか

マンション管理会社にとって、エントランスの滑りやすさは「管理組合が判断すべき問題」と考えられがちです。しかし、管理委託契約に基づいて建物の維持管理を受託している管理会社には、リスクを把握し、管理組合に対して適切に提案・報告する義務があります。

この提案を怠った場合、事故が発生した際に管理組合から損害賠償請求を受けるだけでなく、管理会社自身が「善管注意義務違反」を問われるケースがあります。管理組合の法的リスクについては別記事で解説していますが、本記事では管理会社側が負う責任と、複数物件を受託する管理会社ならではの実務対応に絞って解説します。

管理会社が負う「善管注意義務」とは

国土交通省の「マンション標準管理委託契約書」では、管理会社は管理組合に対して善良な管理者の注意をもって管理事務を行う義務(善管注意義務)を負うとされています。これは単に清掃や設備点検を行うだけでなく、建物の安全上のリスクを発見した場合に、管理組合へ報告・提案することも含まれます。

注意

「気づいていたのに報告しなかった」は債務不履行になり得る

日常点検や住人からの苦情を通じてエントランスの滑りやすさを把握していながら、管理組合への報告・改善提案を行わなかった場合、管理委託契約上の善管注意義務違反として、管理会社が独自に責任を問われる可能性があります。事故発生後に「管理組合の判断だった」という主張は通りにくいのが実情です。

管理組合の責任との違い

  • 管理組合:共用部分の工作物責任(民法717条)など、施設の所有・管理主体としての責任
  • 管理会社:管理委託契約に基づく善管注意義務・報告義務違反という、契約上の責任

つまり管理会社は、たとえ最終的な意思決定権が管理組合にあったとしても、「リスクを認識し、適切に提案したかどうか」という別の観点で責任を問われる立場にあります。

複数物件を受託する管理会社ならではの課題

戸建てとは異なり、管理会社は多くの場合、複数のマンションを同時に受託しています。そのため、エントランスの滑りやすさへの対応には、単一物件の管理組合とは異なる課題があります。

物件ごとに床材・状況が異なる

受託物件ごとにエントランスの床材(御影石、大理石、セラミックタイルなど)や仕上げ、劣化状況が異なるため、画一的な対策では対応できません。物件ごとに適した診断と施工方法の見極めが必要になります。

点検・提案業務が属人化しやすい

フロント担当者ごとに安全リスクへの意識に差があると、同じ管理会社内でも「提案する物件」と「提案しない物件」が生まれてしまいます。これは管理品質のばらつきとして、管理組合との契約更新時の評価にも影響します。

大規模改修までのつなぎ対応が難しい

床材の張り替えは長期修繕計画に組み込まれる大規模工事であり、数年単位の計画になることも珍しくありません。しかし転倒事故のリスクは「計画が実行されるまで」待ってくれません。大規模改修までの期間、安全性を確保するつなぎの対策が求められます。

管理会社が実務として取れる対応

床材を張り替えることなく、既存の床材のまま滑りにくくする防滑施工は、管理会社が複数物件へ横展開しやすい対策のひとつです。

防滑施工が管理会社に適している理由

複数物件への提案・施工を効率的に進められる

防滑施工は床材の表面を加工する工法のため、大規模改修を待たずに短期間で施工が完了します。最短1時間から施工可能なため、複数の受託物件に順次提案・施工していく運用にも組み込みやすくなります。

フロント業務に組み込みやすいポイント

  • 点検項目に追加しやすい:雨天時の目視確認だけで滑りやすさを把握できる
  • 理事会への提案材料になる:テスト施工で効果を事前に確認したうえで提案できる
  • 美観を損なわない:美観維持率95%以上。エントランスの意匠を変えずに提案しやすい
  • 低コストで比較検討しやすい:床材の張り替えに比べて予算承認のハードルが低い
  • 契約更新時のアピール材料:安全対策への積極的な提案は管理品質の評価につながる

業者選定で確認すべきポイント

複数物件を横展開する前提で防滑施工の業者を選定する場合、既製品の溶剤を一律に使う業者では、物件ごとの床材の違いに対応しきれず、美観を損なうトラブルにつながることがあります。

ME工法では、現場の床材(種類、吸水性、組成構造など)ごとに溶剤をオーダーメイドで調合するため、物件が異なっても安定した仕上がりを実現できます。業者選定の際は、以下の点を確認することをおすすめします。

確認すべきチェックポイント

  1. 床材ごとに溶剤を調合しているか:既製品の一律施工でないか確認する
  2. テスト施工に対応しているか:本施工前に効果と仕上がりを確認できるか
  3. 施工時間・工程:入居者・来訪者への影響を最小限にできるか
  4. 複数物件への対応実績:管理会社としての継続的な発注に対応できるか
  5. 報告書の提供:理事会説明に使える施工報告書を発行できるか