浴場での転倒事故で過失問われる
争点は施設の安全配慮義務、1審は原告の請求棄却
温浴施設の浴場出入り口で高齢者が足を滑らせ、転倒してけがを負った。施設運営者が訴えられた裁判で争点となった「安全配慮義務」について、筆者は「新型コロナ対応にも通じる法律上のポイントがある」と説く。(日経アーキテクチュア)
今回取り上げるのは、北海道の温泉浴場で起こった転倒事故について、施設側の過失責任が問われた
裁判だ。
事故に遭った利用者(原告)は当時85歳の女性。2014年5月、女性は問題の施設を訪れ、脱衣場から浴場に向かった。通路は2枚のスライドドアで脱衣場と浴場を隔てており、女性はまず脱衣場側のドアを開けて通路に進み、さらに浴場側のドアを開けて浴場に足を踏み入れた。
通路と浴場の境界には約8cmの段差があった。女性はここでタイルに足を滑らせて転倒。けがを負ってしまった。通路にはバスマットが敷かれていたものの、浴場へ踏み込む位置にはゴムマットを敷く、
床面のタイルに滑り止め処理を施すといった措置は取られていなかった〔図1、2〕。
〔図1〕800万円以上の高額賠償求める事件に
1993年 | 事故があった温浴施設が開業 |
2014年 5月 5日 | 原告の女性は午後8時30分ごろ、脱衣場から浴場へ向かったところ、浴場に入ったところで転倒、けがを負った |
2015年 | 原告の女性が施設運営者を相手取り、旭川地方裁判所へ提訴した。請求の合計は823万円。内訳は、治療費約11万円、通院交通費など約6万円、休業損害約72万円、入通院慰謝料210万円、逸失利益約149万円、後遺障害慰謝料300万円、弁護士費用約75万円 |
2016年 5月 | 原告の女性が死去。遺産相続した遺族が裁判を継続した |
2018年11月29日 | 1審判決。旭川地裁は施設側の過失を認めず、原告側の請求を棄却した。原告側は控訴した |
転倒でけがを負った女性は、「施設側には安全配慮義務を怠ったという過失がある」と主張、施設運営者を相手取り、損害賠償を求めて旭川地方裁判所へ提訴した。
請求額は合計で823万円。治療や通院にかかった費用として約17万円を計上した以外に、休業損害、入通院慰謝料、逸失利益、後遺障害慰謝料などが加わっていた。施設側は過失を認めず、全面的に争った。