土地の工作物責任 所有者には無過失責任(過失がなくても責任を負わなければならない)
くらしの法律 第 89 回
民法は、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、
その工作 物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負い、占有者が損害の発生を
防止するのに必要な 注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならないとし(717 条①)
さらに竹木の植栽また は支持に瑕疵がある場合について準用するとしています(同条②)
これらの責任を土地の工作物責任と称し、第一次的な責任は占有者にあり、占有者が免責される場
合は所 有者が責任を負うことになります。
所有者は無過失であっても責任を負うという点で過失責任を原則とする民法の不法行為の規定の中
では特殊なものといえます。
土地の工作物とは、建物やその一部(屋根、建物に付設された看板、エレベーター、 自動扉など)
石垣、塀などの土地の上に人工的に設置された物が典型ですが、裁判所 はそれ以外も幅広く土地の
工作物と認める傾向にあり、上下水道設備、地下道なども土地の工作物とするのが判例です。
設置または保存の瑕疵とは、土地の工作物が本来備えているべき安全性を欠く状態を いい、土地の
工作物その物の物理的欠陥がある場合だけでなく、その物に物理的欠陥は なくともその利用、運用
上の危険を回避するような設備、装置を備えていないような場 合を含みます。
工作物責任は、設置または保存の瑕疵と発生した損害との間に因果関係があることを 要件とします
が、大雨や大地震などの自然力が加わったために損害が発生した場合など に設置または保存の瑕疵
と損害との因果関係の存否が問題となります。
因果関係が認められたとしても自然災害の損害に対する寄与度により責任が軽減さ れる余地があり
ます。阪神・淡路大震災によりマンションの一階部分が倒壊し住人が死 亡した事故につき、自然力
の災害発生への寄与度を割合的に考慮し 5 割の限度で賃貸人・所有者の損害賠償責任を認めた裁判
例があります(神戸地裁平成 11・9・20)。
これからの季節、屋根の積雪の崩落により第三者に損害を負わせるおそれがあります。 積雪崩落の
危険性を認識しながら、屋根に崩落防止の十分な設備(雪止め)もなく雪下 ろしもしていなかった
という事情から積雪の崩落につき家屋所有者の工作物責任が認 められた裁判例もありますので注意
が必要です(金沢地裁昭和 32・3・11)