店舗内の転倒事故では注意義務が必要になるもの 

 先日新聞で「餃子の王将」寝屋川店で、2012年11月に起きた、店内転倒事故の損害賠償訴訟の和解成立についての記事を見ました。

 

 店内転倒事故はその事故状況によって、店舗側(運営側)の責任と被害者の自己責任について意識が大きく異なるケースが多くあります。

 

この記事の場合ですが、まず、状況から説明します。

 事故が起こったのは、以前から滑りやすいと噂があった「餃子の王将 寝屋川店」。当時40代の女性客が家族を連れて店舗へ訪れ、席へ向かう途中に右足を滑らせて転倒。左ひざを骨折し、ひざ下曲げにくくなる障害が残った。女性側は、床に油が存在していたのは間違いないとし、運営会社へ、あらかじめマットを敷くなど、店が滑りやすい床への対策を怠ったためだとして運営会社へ約2500万円の損害賠償を求め訴訟を起こした。

 

 

 一方王将側は、同店は防滑性の床材を使用し、従業員が毎日清掃していた。また、月1回は専門業者が床を洗浄していたと主張。また、転倒した箇所は油が飛び散るような場所でもないとし、過失はないと主張していた。

 

この訴訟は、王将側が被害者に解決金100万円を支払う内容で大阪地裁で和解していた。

以前からこの店舗はインターネットなどでも滑りやすい店舗と噂があったという。

 

 

 被害者側は2500万円の賠償請求を求め訴訟を起こしています。この金額には、入院・通院費、交通費、諸経費、慰謝料、休業損害、後遺障害の金額から算出していると思われます。女性も40代と若く、膝が曲がりにくくなるなどの後遺障害を認定を受け、また、仕事をしていたのなら逸失利益なども想定して含んでいたとも考えられます。

 しかし、和解金は100万円でした。被害者側もこれ以上長引いても良い結果にはならないと判断したのでしょうか。また、王将側もブランドイメージなども考えると、いつまでも無過失を主張し、和解を拒むことは得策ではないと判断したとも考えられます。

結果、当初の請求額から約25分の1という金額で和解しました。

 

店舗内の転倒事故では様々なケースが想定されます。

・床が水で濡れており、滑ってこけた

・お客の誰かが落とした物(アイスクリームや野菜の切れ端など)に足を乗せてこけた

・雨の日に床が濡れていたのでこけた

・床の清掃後に床がまだ濡れていたためにこけた

・床に置いていた商品につまづきこけた

etc

 

このような事故で店舗側が支払う賠償金(治療費など)はその多くが、施設側が加入している「施設賠償責任保険」から支払われます。

 

施設賠償責任保険は、

  • 1施設の安全性の維持・管理の不備や、構造上の欠陥
  • 2施設の用法に伴う仕事の遂行

が原因となり、他人にケガをさせたり(対人事故)、他人の物を壊したり(対物事故)したために、被保険者(保険の補償を受ける方)が法律上の賠償責任を負担された場合に被る損害を補償する保険です。
日本国内において、保険期間中に発生した事故が対象です。

【想定される事故例】
  • 自転車で商品配達中に通行人と衝突し、ケガを負わせた。
  • 従業員が不注意により来客にケガを負わせた。
  • 施設のガス爆発により入場者が死亡し、近隣の建物・車両等に損害を与えた。
  • 施設の壁が倒壊し、通行人にケガを負わせた。

 

王将の転倒事故では、被害者側が、滑りやすいと言われている床に対し、何の対策もとっていなかったこと、つまり、施設の管理運営の不備が原因で事故が起きたと主張していました。

ただ、近年の判例に基づき、賠償額も算出されますので、その殆どが全額支払われるわけではないのが現状です。

 

このケースでも、訴訟時の賠償請求額2500万円は少し多すぎる気がしますが、結果的に100万円しか手にすることができませんでした。

この減額の要因の一つが「過失相殺」です。自動車事故ではよく聞く言葉ですが、このような転倒事故でも過失相殺が発生します。

どういうことかと言うと、原因を作ったのは店舗(運営)側ですが、足元を見ていなかった、前(足元)をよく見ていなかった。また、古く磨り減った滑りやすい靴を履いていた。走っていた。もしくは、予測できた(注意すべきだった。特に滑りやすいと噂されていた店舗では、滑ることは予測できた)とされる場合などです。被害者側も注意義務があったと、過去の判例を参照されます。

 

その判断基準となると言われるのが、2001年7月に発生した「コンビニエンスストア店内転倒事故」です。

この判例の中でも「合成樹脂製で長期間の使用により「靴底が減って滑りやすくなっていた靴を履いていたこと、パンと牛乳を持って両手が塞がっていた状態であったことなどを考慮し、5割の過失相殺をするのが相当」としている。

詳しくはこちら

コンビニエンスストア店内での転倒事故とフランチャイザーの責任(消費者問題の判例集)_国民生活センター

 

被害者側からすれば、店側が注意していれば、こんな事故は起こらなかった、と思うのは心情は当然です。

しかし、判例では被害者側も注意義務を怠った為事故になったと判断しているのです。

 

ただ、過失相殺を不服として訴訟を起こしても、十分な賠償金を得ることが難しいと言えます。実際この王将の事故も後遺障害が残ったはずなのに、和解金としての100万円でした。それだけ店舗側の過失が無かったと判断されたのかもしれませんし、被害者側も、滑りやすい店舗だと知っていたはず、という注意義務を怠ったと見られたのではないでしょうか。

 

先程の2001年の自己の判例でも5割が過失相殺されています。訴訟を起こし、裁判で勝訴しても、弁護士報酬や裁判に費やす時間屋心労を考えてみると、どこかで和解する方が良いのでは、と考えることがあります。

しかし、被害者の方の多くは納得がいく結果を求めているのだと感じることも多いのも事実です。お金だけではないんだとおっしゃる人もいます。

 

ただ、店舗側の初期対応がどのようなものだったか分かりませんが、もしかしたら、「無過失」を主張し、なんの対応もしていなかったとすれば問題です。

当時のスタッフがこんな対応をしていたとは思いませんが、不親切であったり、救急車も呼ばなかったなどということがあれば、被害者も感情的になるケースがあります。その根は深いものとなり話し合いも上手くいきません。

初期対応というのは本当に大事なのだと感じます。

運営側に過失の有無にかかわらず、誠意ある対応はとても大事です。

 

一番困るのが、「保険屋さんは頑張ってくれた」けど「あんたんとこの誠意は?」という方です。高い保険料を支払っている保険で対応しているのですから、それが精一杯の対応だと理解して欲しいです。だって、保険料払ってるのに「頑張ったのは保険屋さんだけ」というのは残念です。施設賠償責任保険には自動車事故のような示談交渉サービスがありませんので、実際、被害者の方と交渉をするのは「契約者」であり、保険会社(保険代理店)と交渉するのも「契約者」なのです。

被害者の方に保険金をお支払いするために一番頑張っているのは「契約者」だと思います。

 

勿論、代理店も頑張っているんですけどね。

 

転倒事故についてはいつか、もっとちゃんとまとめて書きたいと思います。