ビルやスーパーなどにおける転倒事故の責任について
飲食店の入っているビルやスーパーなどで何気なく歩いていたところ、床が濡れていて滑ったことなどが原因となって転倒した場合、施設管理者に対して、責任追及を行うことができる可能性があります。
建物の設置管理者の責任としては、民法717条第1項に定めがあり、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」とされています。そのほか、安全配慮義務違反として、債務不履行責任を負うことがあります。
ここでいう「瑕疵」とは、通常有すべき安全性とされ、どんな場合でも事故が生じてはいけないというような、極めて高度なものとまではいえません。このため、施設管理者は「通常の使用を前提として安全性が確保されている」といえる程度の管理を行う義務があり(最判昭和45年8月20日)、これに違反していると、責任追及を受ける可能性があります。
近年、このような考え方がある程度社会に浸透していることもあって、設備や管理に問題があって転倒して怪我をした場合、その責任追及をしたい、という相談があります。確かに施設管理の責任はあるため、店舗などで転倒事故が発生した場合、きちんと謝罪を行って、補償の話を行うこともあり得ます。
しかしながら、だからといって、単純に転倒した=責任追及が可能であり、高額な請求ができる、という図式にはなりません。
といいますのも、施設管理者の設置管理に瑕疵があったことは転倒者が証明しなければなりません。また、それによって転倒したこと、怪我の治療が必要になって具体的にどのような治療を受け、それによっていくらを支払った、ということも転倒者が証明しなければなりません。さらに、その請求金額はあくまで「損害」であり、賠償によって高額な利益が得られるものともいえないのです。
加えて、他の利用者が普通に歩行していたような場合、転倒者の不注意によって転倒したとも判断されかねず、この場合には過失相殺を受け、請求金額が減額される可能性があります。
このようなことを考えますと、相当な負担が生じますので、怪我が軽微な場合には、どこまでの請求を行うのかは、慎重に検討しなければなりません。
他の事件でも同じなのですが、仮に請求を行う場合には、いろいろなことを調査し、資料を揃えていく必要がありますので、転倒事故での賠償請求をお考えされるような場合には、まずは弁護士に直接相談されることをお勧めします。この場合、自動車保険で附帯している弁護士費用特約が利用できる可能性もありますので、確認されてみてもいいでしょう。
施設の管理をされる者におかれては、施設内を安全に保つことも重要ですが、転倒者が感情的になることで争いが重大かすることも多いため、転倒者が出たような場合、頭から請求を否定するのではなく、まずは真摯に話を聞いて対応し、それでも問題が解決しないようなら、法的手続を検討されるといいでしょう。弁護士に交渉を依頼していただくことも有用です。
当事務所では、このような案件も扱っておりますので、転倒者側、施設管理者側、いずれの場合でも、お困りになられましたら、いつでもご相談ください。