「大判化」「薄型化」が進み 用途の広がるセラミックタイル

幅広く使われ始めたセラミックタイル

コンビニエンスストアや駅、オフィスビルで進む採用

 多くの人たちが、毎日のようにコンビニエンスストアを利用していますが、その店舗の床に起こった変化に気付いた人は少ないでしょう。ひと昔前まで、コンビニエンスストアの床は「塩ビ系素材」が定番でした。それが、ある時期から一気に「セラミックタイル」へと替わり始めました。現在では、新規店舗はもちろんのこと、既存店舗でも改修を機に、床にセラミックタイルを採用することが多くなっています。

 セラミックタイルと言うと、キッチンや浴室などの水まわり空間に張る小口タイルを連想する人が少なくないかもしれません。しかし、最近は様々な建物の床や壁などで幅広く使われ始めています。
 例えば、東京の地下鉄駅では、リニューアルを機に、それまで石張りだった箇所をセラミックタイルに張り替えるケースが見られます。
 以前はあまり見られなかったショッピングモールや、オフィスビル、ホテルなどでも、床や壁にセラミックタイルが選ばれるようになっています。

 こうした用途の広がりの背景には、従来のセラミックタイルの概念をくつがえすような近年の技術革新があります。

地下鉄駅            ホテル

                        地下鉄駅                  ホテル

ショッピングモール

    ショッピングモール

 各種用途の建物で、これまで石張りや塩ビ系素材が一般的だった床や壁に、セラミックタイルが使われ始めている。

「大判化」×「薄型化」×「デザインの洗練」が進む

最大3000×1500mmの大判化が実現

 近年のセラミックタイルは、「大判化」、「薄型化」、「デザインの洗練」の3点で技術的に大きな飛躍を遂げました。
 なかでも革新的なのが「大判化」です。“焼き物”であるセラミックタイルの製造には、原料となる粘土を均質に締め固め、焼成ムラを招かない技術が欠かせません。当然、サイズが大きくなるほど、その技術の難易度は高くなります。近年、その技法に著しい発展が見られ、大判化しても面全体で均一な強度を確保できるようになりました。
 少し前までは、一般に流通するセラミックタイルの最大寸法は600mm角でしたが、今では3000×1500mmを超える大判をつくることもできます。

厚さ5mm以下でも強度を損なわず

 「薄型化」は5~7年前から少しずつ進んできました。現在、一般的なセラミックタイルの厚さは9~10mmですが、近年の「薄型セラミックタイル」は厚さ5mmを下回っています。薄くしても必要な強度を確保できる製造技術が磨かれたためです。
 実は、製造技術としては、さらに薄い3mmでもつくれるレベルに達しています。しかし、補強材なしでは、運搬・施工時の破損リスクを払拭できないことなどから、実用には厚さ4.8mm程度は必要とされています。

 なお、セラミックタイルの大判化・薄型化は、単に製造技術にとどまらず、接着剤を始めとする施工技術の発達も、大きく後押ししました。

 

天然石と見分けのつかない質感

 「デザインの洗練」は、主にセラミックタイルに施すプリント技術の向上によるものです。かつては単色のみでしたが、プリント技術が発達した今では、大理石をはじめとする各種の天然石の表情から、レンガ、テラコッタ、木目調、アンティーク調まで、多彩なデザインの製品が生み出されています。
 同じ石の柄でも、磨きや粗面、叩き、割り肌など、石材と同じような仕上げのデザインがあり、凹凸のある表面の質感も再現されています。実際に天然石タイルを見比べても区別がつかないほど、その表情は自然です。

天然石調     大理石調

       天然石調                  大理石調

木目調

       木目調

他建材をしのぐメンテナンス性と汎用性

「少ない目地」からセラミックタイル本来の特性を再認識

 大判化が、同時に意味するのが「少ない目地」です。床や壁のタイル目地は、汚れが付着しやすく、しかも目立つので、メンテナンスの観点から見れば、少ないほうが有利です。
 大判化に伴ってセラミックタイルの採用が増えている理由の1つは、そこにあります。目地の少ない大判セラミックタイルは、清掃の手間が少なくて済み、維持管理の負担を軽減できることから選ばれているのです。

 維持管理の負担軽減に着目した“副産物”として、セラミックタイル自体が持つ優れた特性が再認識されるケースも増えています。
 例えば、前述のコンビニエンスストアの場合、表面に光沢のある磨き仕上げのセラミックタイルを用いると、既存の照明のままでも店内がより明るくなることが分かり、リニューアル時の採用を大きく後押ししました。

 このように、目地が少ない大判のセラミックタイルは、美観の向上や、空間の広がり感につながる点からも選ばれています。

 

吸水率が低く、防汚性や耐久性に優れる

 高温で固く焼き締められたセラミックタイルは、それ自体が汚れにくく、メンテナンスしやすい特性を備えています。汚れが付着しにくく、変色や表面の劣化が少ないため、長い期間にわたって美観を保ちます。
 天然石と比べても同じようなことが言えます。セラミックタイルは、天然石よりも吸水率が低いので、より汚れが染み込みにくく、付着した汚れも落としやすいメリットがあります。
耐摩耗性にも優れるので、天然石のように表面が擦り減ったり、削れたりすることもほとんどありません。
 セラミックタイルが本来持っているこうした特性が、大判化とあいまって、今、改めて広く認識されるようになっています。

 

薄くて軽いので、床・壁のリニューアルにも

 薄型化が進んだことも、最近のセラミックタイルの用途拡大に大きく寄与しています。
 例えば、薄い床材や壁紙を使っている室内をセラミックタイルに張り替えて、高級感の漂うインテリアに一新することも可能です。厚さ9~10mmの従来製品では難しかったケースでも、薄型セラミックタイルであれば、下地の調整も少なく済みます。
 なお、使用中の破損や割れのリスクを軽減するためにも、床に使う場合は少なくとも厚さ6mm程度は確保したほうが安心です。

 

躯体に負担をかけず、扱いやすい軽さ

 薄型化は、製品の「軽量化」にもつながっています。部材が軽くなれば、建物の躯体や下地にかかる負荷が少なく、施工時も扱いやすくなるので、新築に限らず、既存建物のリニューアルでも取り入れやすくなります。
 また、天然石と同じ表情を持ちながらも、はるかに軽量なので、見た目には天然石と変わらない建築空間をセラミックタイルでつくり出すことも可能です。