ショッピングセンター、コンビニ、職員食堂、施設での転倒事故

 転倒事故についての裁判例

 では、具体的にどのようなケースで責任が認められ、または否定されるのでしょうか。この点は究極的にはケース・バイ・ケースですが、具体的なイメージを持っていただくため、数点の裁判例を挙げます。

●責任肯定例

 ショッピングセンターのアイスクリーム店の前の床にアイスクリームが落ちていて、71歳の女性が転倒した事例では、当日はアイスクリーム店の特売日であったため、店側は付近に十分な飲食スペースを設けて誘導したり、巡回を強化するなどしてアイスクリームが落下した状況が生じないようにすべき義務があったとして、店側の責任を認め、2割の過失相殺を認めました。

 コンビニで床が水拭きにより濡れていたため21歳の女性が滑って転倒した事例で、コンビニは、靴底が減っていたり急いで足早に買い物をするなどの客もいることも当然の前提として、水拭きの後は乾拭きをするなど床が滑らない状態を保つ義務があったとして、店側の責任を認めつつ、客もパンと牛乳を持って両手がふさがった状態であったことや靴底がすり減っていたことなどから過失相殺を5割認めました。

●責任否定例

 職員食堂で他の利用者が床にこぼした汁による転倒事故の事例では、セルフサービスという運営形態や共済組合が運営する安価な職員食堂という点が考慮され、また従前転倒事故がなかったこと等から、共済組合の責任自体が否定されました。

 

  実務上の留意点

  このように、裁判例は、もろもろの要素を考慮して、自己の予見可能性と回避義務の有無を判断しています。

 それで、店舗の安全管理においては、同様に、もろもろの状況を総合的に見て、実務上可能な適切な防止策を講じる必要があります。

 その中には、店舗の業態や構造に応じた危険箇所の検討、店舗の顧客層を考慮した適切なマット・床材等の内装設備の選定、監視体制・頻度の検討、清掃の頻度・時間帯と方法、顧客の動線と混雑緩和の方策、清掃後や悪天時の注意喚起等が含まれます。また、過去に事故の前例があるのであれば、この点再発防止策は必要といえます。

 なお、フランチャイズ経営の店舗の場合には、フランチャイジーの店舗の維持管理の不備を理由に、本部(フランチャイザー)が責任を負うこともありえます(前記肯定例2番目はその事例です)。それで、フランチャイザーにとっては、店舗の安全管理のための適切な方策を、加盟店(フランチャイジー)にきちんと指導するという点も留意する必要があると考えられます。