滑って転倒事故になった判例(管理者責任が問われています。)
ニュースと法律~弁護士解説~ニーレタ2021-07-29
スーパーの店内で転倒し、左肘を骨折した東京都の男性(63)が、床が水浸しで放置されていたのが原因だとして、経営する小田原百貨店(神奈川県小田原市)に約1億200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、東京地裁であった。
品田幸男裁判長は、野菜売り場でサニーレタスの水が床に垂れたため転倒の危険が生じたとして、約2180万円の支払いを命じた。
判決によると、男性は2016年10月、同県湯河原町のスーパーで、足を滑らせて転倒。入通院が必要となり、手術を受けるなどした。品川裁判長は、サニーレタスに付いた水が垂れて床がぬれていたのに、清掃などの対応をした形跡がうかがえないと指摘。「安全管理義務に違反した」と判断した。
賠償額は、企業経営者の男性が負傷で休業せざるを得なかった点や、左肘関節に後遺障害が残ったことなどが考慮された。
(2021年7月28日時事ドットコム)
https://kakehashi-kigyo-law.com/aboutnews/archives/60
スーパー店内での転倒事故とのその賠償責任を巡る問題が続いています。以前には落ちていたアイスクリームで転んだ事案、天ぷらで転んだ事案がありました。いずれも当サイトで取り上げています。
アイスクリームの事案でも天ぷらの事案でもいずれも店舗側の責任が認められ、相当額の賠償責任が肯定されています。本件のサニーレタスの水での転倒もこれら裁判例の傾向を引き継ぐものであり、店舗側の安全配慮義務違反を肯定しています。サニーレタスの水が垂れる可能性があること、これで足を滑らせれば転倒しケガをするおそれがあること、そうならないために水が垂れないようにしたり、こまめに清掃をしたりする注意義務があったこと、これら注意義務を怠ったことということで今回も責任が肯定されたものと思われます。
店舗側としては、売り場において商品が落ちていないか、汚れていないか、転倒の危険はないかなど常に注意をすることが求められます。
ショッピングセンターのアイスクリーム売場前の通路で起こった転倒事故の事例
当時71歳の女性がショッピングカートを押しながら歩いていたところ、アイスクリーム売場前の通路に落ちていたアイスクリームで滑って転倒。右大腿骨と第二腰椎を骨折し、92日の入院治療と85日の通院治療を受けました。また、下肢の関節機能に障害も残りました。 女性は店舗が安全管理を怠ったことについての「不法行為責任(民法709条)」と、床が滑りやすい状態になっているのに放置したことについての「土地工作物責任(民法717条)」を問い、ショッピングセンターに約2,600万円の損害賠償を請求しました。判決の結果、裁判所はショッピングセンターに約860万円の支払いを命じました。
コンビニ店内の通路で起こった転倒事故の事例
当時40代の買い物客が、店内のパンコーナーと食品コーナーの間の通路を歩いていたところ転倒しました。この事故により下腿後面等の筋肉群等の軟組織の断裂・損傷の他、以前かかっていた脊椎の変性椎間板の状態悪化などの傷害を負いました。転倒した買い物客は、店側が足ふきマットを設置しておらず、雨天時で通路が濡れていると分かっているにも関わらず来店客に慎重な歩行を促さなかったなどとして、店舗側が考慮すべき注意義務への違反を主張。さらに継続的な痛みや運動制限による苦痛や仕事への影響などを理由に、1,600万円の慰謝料を含む損害賠償6,000万円を請求しました。しかし裁判の結果、実際には店舗出入り口の外と中にそれぞれ1枚ずつ足ふきマットが設置されており、店内の清掃も十分に行われていたと認められ、最終的に原告の損害賠償は棄却、原告の弁護費用もすべて自己負担となりました。
雨で床滑り転倒 障害残る、しまむらに賠償命令
雨水でぬれた床で転んで骨折したのは店側が転倒防止の措置を怠ったのが原因として、
福岡県苅田町の女性(66)が衣料品量販チェーン「しまむら」(本社・さいたま市)を相手取り、約1771万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、福岡地裁小倉支部であった。
岡田健裁判官は「客が滑って転倒する危険があったことは明らかで、滑りやすい状態が放置されていた」として、同社に約572万円の支払いを命じた。判決によると、女性は2009年7月24日、北九州市戸畑区の「ファッションセンターしまむら一枝店」を訪れ、入り口の自動ドア付近に置いてあった傘袋のスタンド近くで転倒し、右太ももを骨折。
人工の骨で補強する手術を受け、後遺障害で右股関節が動かしにくくなった。女性は「転倒したのは床が雨水でぬれていたためで、傘袋スタンド付近に滑り止め用マットを敷くなどの事故防止策を怠った」と主張。同社は「自動ドアの外側などにマットを敷くなど対策を講じていた」と反論していた。岡田裁判官は女性の損害額を約1486万円としたうえで、「滑らかな床面で、滑りやすくなっていたことは原告も容易に推察できた」として過失割合は原告65%、被告35%と判断。弁護士費用を加えて賠償額を算定した。
駅ビルで転倒、骨折2,200万円賠償命令
JR池袋駅ビル7階通路で主婦(69歳)が転倒、左足を骨折し、左股関節の機能を失う後遺症が残った。 駅ビル会社「池袋ターミナルビル」を告訴。
東京地裁は「転倒事故は床に油や水などが付着し、滑りやすくなっていたことが原因」として、駅ビル会社に2,200万円の支払いを命じた。
プールの廊下で転倒事故、原告勝訴
50代の女性が、水溜りがあったプールの廊下で転倒、左手首 骨折する。
東京地裁は、清掃や注意、呼びかけなどは怠っていなかったかが、清掃前には危険を防止する措置が執られていない等により、損害賠償支払いを命じる。被告は事故当時、施設各所に脚拭きマットを置き、係員が1時間おきに清掃を行い、踊り場には体を拭くように促す注意書きを提示していました…にも関らず、裁判所は床面に有効な滑り止め措置が執られていないという理由で施設側に瑕疵があり、損害賠償の支払い命令に出た代表的な判例です。
1 今回の判例 店内での転倒事故と店舗側の責任
東京高裁平成26年3月13日判決
57歳の女性客AがB銀行のATM利用後、外に出ようとして店舗出入口に敷かれた足ふきマットに足を載せた途端、マットの端がまくれ上がって転倒し、後遺障害が残る傷害を負いました。
そこで、AがB銀行に対し、不法行為による損害賠償請求訴訟を提起しました。
第1審判決は、マットの裏が濡れていたことは認めつつも、専らAの不注意によってマットが滑り事故が発生した可能性もあるとしてB銀行の責任を認めませんでした。これに対して、Aが控訴したのが本件です。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下の事情を考慮して、B銀行の責任を肯定しつつ、4割の過失相殺を認めました。
B銀行には、顧客が出入口に敷かれていたマットの上を通常の態様で歩行するに当たって加えられる力により床面上を滑ることがないように整備しておくことが求められる。
Aは急いで出入口に向かった様子もなく、マットの端から10~20cmの所に足を乗せたところ、マットが横にずれたためバランスを崩し滑り込むような体勢となって転倒した。事故当時、マットの裏面は湿って波打った状態にあったことから、床面上を滑りやすい状態で敷かれていた点でB銀行には注意義務違反がある。
ただ、Aももっと注意深く足を運び、身軽な状態であればマットがズレて盛り上がったとしても転倒しなくて済むか、転んでももっと軽いケガで済んだことも考えられ、4割の過失相殺を認めるべきである。
3 解説
(1)店舗における顧客の転倒事故についての責任
店舗において顧客が転倒する事故が発生した場合、どこまでが顧客の自己責任で、どこからが店舗経営者の責任となるのでしょうか。
この場合の店舗経営者の責任には、法律上は、「債務不履行責任」というものと「不法行為責任」というものの二種類が考えられますが、実質的な内容はほぼ同じです。すなわち、事故を予見し得たこと(予見可能性)と結果を回避する義務があってそれに違反したことの両方が肯定される場合に、責任が認められます。
例えば、雨が降れば傘の雫や濡れた靴により床が濡れることが予見できるので、滑りやすい材質の床やマットはそもそも避ける必要があり、また床が滑りやすくなっていればモップで拭くなどの適切な対処をして事故を回避する義務が認められるという方向で考えられることになります。
他方、そうした対処をしても、顧客が通常では想定できないような歩き方をしたために事故が発生したような場合には、顧客の自己責任として店側の責任が否定される方向で考えられることになります。